俳句百選


未完成 レモンの風 重い砂 カタカナの文字 一面漢字
ありがとう   施設出て自立   ヒーロー   名残雪 天才


      未完成

賞味期限とっくに切れて秋の蛇

春立つや童の顔の未完成

ばあちゃんの味噌恋しくて鳥帰る

パンジーの庭初めての給料日

ジャンケンに負け鞄持つ麦の秋

母の日に贈る似顔絵二等身

徳島にディスコは二つ火取虫

耳垢がポロリと落ちて新学期

寒き朝塩が歯グキを引き締める

暖かい飯と味噌汁地虫出づ



    レモンの風

浅春の街にレモンの風一つ

雲雀東風「郵便です」と戸が開く

手を伸ばすところに絵本あたたかき

春風にゆっくり走る救急車

納豆を買いに行く道風光る

風光るやたらと橋の多い町

信号の黄色から赤風死せり

作業場にドライフラワー風死せり

テーブルに皿が一枚秋の風

木枯しに価格破壊の大ちらし



    重い砂

原子炉にまた異常あり初氷

亀の鳴く地下一階の駐車場

内定の取消し通知黄砂降る

蝿生る洗剤の箱は再生紙

アメーバーまた分裂し春深む

六月の夕べ砂場の重い砂

飛行船真上に夏至を連れてくる

十六夜やどこか根暗の支店長

老夫婦言葉豊かに障子貼る

片方の耳のない壷暮早し

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    カタカナの文字

ラミネートチューブ使いきる祭後

ブラックホール発見の記事黴の宿

トレンディードラマ次々濃紫陽花

7月のポスターカラー青がない

ステーションパークオープン梅雨明ける

デザートはキウイフルーツ青簾

キーパーにイエローカード熱帯夜

原爆忌マークシートを塗りつぶす

ラムネ玉カラカラカラカラ酸性雨

カタカナの文字が氾濫夏の夜半



   一面漢字

涅槃西風美術年鑑発売中

全人類滅亡予言花吹雪

液状化現象朧月二体

五月闇只今虫歯治療中

一歩一歩不言実行蝸牛

青嵐火災報知機点検中

精神科全棟満室半夏生

繁華街一面漢字熱帯夜

親戚中皆健康鏡餅

町内会全員集合春日和

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    ありがとう

肋骨にひび冬将軍がやってきた

啓蟄は保温装置の故障です

春雷は天神様の迷いです

花吹雪みんなほんとにありがとう

風光る走り出したくなりました

プラタナス僕はこの街好きでした

夏祭ハルマゲドンが来るという

梅雨深し映画の字幕見たくない

半夏生非常出口はこちらです

雪ちらちら貧乏神がやってくる




    施設出て自立

あれもしたいこれもやりたい初暦

いつまでも十九のつもり春あけぼの

話すのがとっても苦手春の雪

介助者はとてもおしゃべり猫柳

何もかも知ってるつもり星朧

強がってみても人間余花の雨

メロン切る施設は街にある方がいい

リハビリの成果ひまわり咲きにけり

貧乏も以外と楽し冬の梅

施設出て自立するもよし花菜漬

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ヒーロー

春立つや歳をとらないサザエさん

春立ちて水戸黄門が旅に出る

独活食うてウルトラマンに変身す

春暁にウルトラセブン飛び立てり

春夕べジギルとハイド現れる

夏近し父がとなりのトトロ見る

アニメ見て泣いて笑って夏だなぁ

カラータイマーピコピコピコピコ夏の果

神無月ゴジラがついに死ぬという

完璧なヒーローは無し春の夢



    名残雪

名残雪五分遅れのバスを待つ

壁際に寝返りうって春惜しむ

図書館のインクの匂い秋近し

秋桜や少女もやがて嫁にいく

黒髪がふいに匂うて初時雨

浮寝鳥ポケットベルが鳴らなくて

家並みが急に途切れる寒さかな

石鹸がカタカタ鳴って冬銀河

曲がり角ひとつ間違え寒に入る

七種粥食いこれからもよろしくね

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    天才

一区から二区へ中継日脚伸ぶ

水温む磁石は北を向いたまま

肩書がなんにもなくてコーラ飲む

ハンモック空が平和に揺れており

凶悪な事件が多発熱帯魚

天才と言われ金魚を飼いにけり

秋の水飲んで妙案浮かびけり

ロケットの秒読み開始日記買う

去年今年蛇口ひねると水は出る

街角のからくり時計春を待つ

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 メールアドレス tetu@hinomine.com

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